ブラジル国内で発生する犯罪の多くが麻薬関連であると言われるが,マナウス市も例外ではない。犯罪件数自体は微減(2011年と比較し,2012年は-5.4%)に留まるものの,薬物所持・使用や薬物密輸の発生件数はそれぞれ大幅に増加している(文末の表参照)。
背景には,ブラジルを取り巻く麻薬取引の事情の変化がある。かつてブラジルはコロンビア,ボリビア,ペルーといった生産国から,米国や欧州へと麻薬を輸出する中継地であったが,今日ではブラジルの経済成長にともない購買層が増え,コカイン使用者数は280万人に達し,米国についで世界で2番目にコカインの消費が多い国である。コロンビア,ペルーといった麻薬の生産地と国境を接しているアマゾナス州についても,従来はサンパウロやリオデジャネイロといった国内主要都市,またはそれらの都市を通じて欧州へ向かう薬物密輸ルートの経由地にすぎなかったが,現在マナウス市は国内でも有数の消費地となっている。
また,アマゾナス州の中でもコロンビアとの国境を接する地域では,コロンビア革命軍(FARC)のゲリラがインディオをいわゆる運び屋として雇うという古くからの問題がある。2003年,連邦警察がFARCに雇われていたインディオの身柄を確保したことで,国境付近のインディオの部族が生活用品の運搬や違法滑走路のカモフラージュ等に従事していたことが判明した。彼らは密林や縦横無尽に走る河川を熟知し,長期間にわたる密林や河川での生活が可能であるため国境地帯の移動には最適であり,また近隣地域にさしたる産業もないことから,現金収入の得られる密輸に関わる者も多い。コロンピア・ペルーとの三国国境地帯に居住するインディオのチクナ族は今年に入って新聞社の取材に対し,「部族の子供,大人,老人までもが麻薬の入った大量のカプセルを飲みこみ,麻薬の運び屋として働いている。身体的負担に耐えられず亡くなる者も多くいるが,生き残ったとしても臓器売買の目的で殺害される場合もある」と述べており,状況はさらに悪化していることがうかがえる。
図1:作戦実行地域
この状況に対し,連邦政府は2011年6月に「国境地域戦略計画」を策定し,「アガタ作戦」と「センチネーラ作戦」と呼ばれる2つのオペレーションを展開している(図1参照)。
陸海空軍約8千人を動員して行われた「アガタ作戦」では主に国境犯罪と環境犯罪が対象となり,コロンビア国境付近における違法滑走路の爆撃,金の違法採掘場の摘発等が行われた。また連邦警察がアマゾナス州軍警察と協力して行った「センチネーラ作戦」では,全伯の国境地帯における麻薬組織の摘発及び麻薬の押収に焦点があてられた。ブラジルは近隣国と全長1万7千Kmの国境線をもち,そのうち1万キロでペルー等の麻薬生産国と接していることから,作戦実施は困難であったものの,開始から1年間で,42の犯罪組織が解体され,現行犯逮捕は7,500人にのぼり,146トンの大麻と24トンのコカインが押収されるなど,「センチネーラ作戦」は一定の成果を見せているといえる。
ただし,現在麻薬犯罪の増加と同様に懸念されているのが,不安定なコロンビア情勢である。コロンビア政府と武装勢力FARCは和平交渉を継続しているものの,交渉中も戦闘が続き予断を許さない状況にある。 先般アルジェリアで発生した日本人を含む人質拘束事件後,世界中で同様の事件に対する警戒が高まっているが,FARCをはじめとする近隣国の武装グループとの関わりが深い西部アマゾン地域も例外ではない。マナウス市にはFARCの拠点があるとの報道もあるほか,フリーゾーンがあり平均所得が高く,外国人駐在員の多い同市では誘拐事件等が起き得る状況が整っている。今後もより一層の警戒が必要とされている。
犯罪種別 |
月間 |
年間 |
前年比 |
|||||||||||
1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
7月 |
8月 |
9月 |
10月 |
11月 |
12月 |
|||
殺人 |
84 |
74 |
68 |
88 |
97 |
80 |
101 |
78 |
72 |
63 |
71 |
71 |
947 |
2.4% |
殺人未遂 |
3 |
1 |
5 |
7 |
4 |
4 |
5 |
3 |
1 |
1 |
3 |
2 |
39 |
-4.9% |
傷害 |
668 |
668 |
843 |
955 |
874 |
921 |
901 |
981 |
1117 |
956 |
886 |
896 |
10,666 |
12.5% |
家庭内暴力 |
416 |
401 |
219 |
231 |
246 |
218 |
229 |
287 |
308 |
292 |
295 |
320 |
3,462 |
-33.2% |
強姦 |
84 |
76 |
92 |
65 |
85 |
82 |
67 |
99 |
77 |
111 |
87 |
104 |
1,029 |
10.3% |
殺人未遂 |
63 |
63 |
51 |
44 |
42 |
45 |
19 |
42 |
31 |
40 |
50 |
49 |
539 |
-16.0% |
窃盗 |
3680 |
3782 |
3353 |
3557 |
3757 |
2489 |
2419 |
3003 |
3301 |
2945 |
3101 |
2453 |
37,840 |
-1.0% |
強盗 |
2965 |
2291 |
2259 |
2283 |
2611 |
2228 |
2247 |
1894 |
1872 |
1963 |
1767 |
1767 |
26,147 |
-16.1% |
銃器不法所持 |
60 |
49 |
54 |
48 |
67 |
77 |
74 |
95 |
72 |
67 |
68 |
68 |
799 |
26.0% |
盗難車押収 |
185 |
167 |
134 |
171 |
230 |
195 |
199 |
155 |
130 |
125 |
127 |
112 |
1,930 |
-9.0% |
薬物所持・使用 |
111 |
134 |
173 |
163 |
142 |
143 |
160 |
220 |
179 |
129 |
152 |
194 |
1,900 |
27.2% |
薬物密輸 |
159 |
140 |
148 |
115 |
154 |
162 |
201 |
260 |
234 |
203 |
187 |
208 |
2,171 |
72.7% |
8478 |
7846 |
7399 |
7727 |
8309 |
6644 |
6622 |
7117 |
7394 |
6895 |
6794 |
6244 |
87,469 |
-5.0% |
s
Foto: Roberto Stuckert Filho/PR