Embaixada do Japão

ブラジル便り2012年6月号

ブラジルコストについて

当地ブラジリアに赴任して1ヶ月半が過ぎた。30年ほど前にサンパウロで2年間暮らしたことがあるが、当時と比べるとブラジルは大きく変貌し、当時のブラジルとは隔世の感がある。とくに人々の消費生活や自動車社会は大きく変化したといえる。大都市の大規模ショッピングセンターや巨大スーパーマーケットは日本でもなかなかお目にかかれない。車も爆発的に増加し、当時に比べると驚くほどきれいな車ばかりである。

しかし、あまり変化していないことも多い。ブラジルの人々は並ぶことが気にならないのか、銀行に行っても役所に行っても行列をよく見かける。昔と変わらない風景だ。しかし、関西人の私には並ぶことは耐えられない。先日、巨大スーパーで買い物した時のことだ。比較的安いのでカートいっぱいに買った。ふと気が付くとレジは長蛇の列で、しかも前にならぶブラジル人客のカートの中は私のカートの何倍もの商品が詰め込まれていた。結局、レジに並んで会計が済むまでに55分を経過した。この55分の機会費用を考えると安い買い物だったかどうか不明である。因みにこのスーパーでは63個のレジがあるが、当日は3分の1も開いていなかったようだ。

一部大都市ではこうした待ち時間を改善する試みが始まっているようだが、レジなどでの時間浪費もブラジル・コストの一つであろう。よく知られているように、ブラジル・コストにはGDPの36%にも達するとされる租税負担、旺盛な資源貿易や資金流入による割高な為替レート、ようやく下がり始めたが依然として高い金利、さらには電力・通信・輸送などの非効率なインフラ、そして不十分な教育などがブラジル・コストの基本的な要因である。しかし、私が着目したいのは高騰する人件費であり、ブラジル・コストとして一層重要となってきていると感じている。

労働者の賃金や所得が上昇することそれ自体は社会的安定に不可欠であり、中間層・Cクラスの拡大や旺盛な消費需要の下支えとなり、成長率の維持に重要である。しかし、ブラジルの問題はこの賃金コストの上昇が労働生産性の上昇に見合っていないことである。図はブラジルの2003年~11年の製造業における実質賃金コスト(2005年=100)と労働生産性(2002年=100)の推移を示したものである(中銀データ)。ルーラ政権となってからは賃金コストの上昇が労働生産性の伸びを上回っていることを示している。こうした賃金コストと労働生産性の乖離が企業の収益を圧迫していることは想像に難くない。また、企業の国際競争力も著しく阻害されているといえる。このため企業にとれば労働生産性の改善が重要な課題となる。しかし、一般的にサービス部門では労働生産性の改善が難しいことを考慮すると、せっかくたくさんのレジがあるのに顧客でごった返すスーパーでも開けるレジを少なくするのは、人件費削減のために止むを得ないのかもしれない。スーパーでの行列は当分なくならないだろう。

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