トピックス 2017年9月号

平成29年9月14日
ブラジル政治情勢
[内政]
(1)テメル大統領の起訴を巡る動向
(2)ラヴァ・ジャット捜査関連
(3)連邦議会の動向
(4)その他


[外政]
(1)ベネズエラ情勢
(2)水銀に関する水俣条約の批准
(3)米シャーロッツビルにおける事件
(4)バルセロナにおけるテロ事件
(5)カルテス・パラグアイ大統領訪伯
(6)ヌネス外相の欧州訪問
 
 
トピックス

 

【内政】

(1)テメル大統領の起訴を巡る動向
(ア)1日,連邦議会が再開し,2日,伯連邦下院は,連邦検察庁によるテメル大統領に対する起訴(収賄容疑)を否決(起訴反対:263,起訴賛成:227,棄権:2,欠席:19)。
 
(イ)8日,テメル大統領弁護団は,ジャノー検事総長の態度は中立ではなく職務範囲を超えて意図的に政権を追い込もうとしていると指摘し,連邦最高裁に判断を要請(後日,連邦最高裁は右要請を却下)。
 
(ウ)16日,リマ元政府庁長官(PMDB)が,両替商フナロの司法取引を妨害した司法妨害容疑で逮捕(22日,ブラジリア連邦裁判所は,右容疑にかかる連邦検察庁の起訴状を受理)。
 
(エ)22日,両替商フナロと連邦検察庁の司法取引が成立(フナロは,PMDBの不正資金スキームに深く関与していたとされる人物で,本年5月に公開されたテメル大統領とバチスタ元JBS社社長との会話音声記録の中でも,クーニャ元下院議長と並び口封じの買収対象として言及されていた人物)。
 
(オ)31日,連邦検察庁は両替商フナロの新たな供述内容を連邦最高裁に提出(連邦最高裁の担当ファキン判事が法的根拠として承認するかどうか検討)。

 
(2)ラヴァ・ジャット捜査関連
(ア)1日,モロ・クリチバ連邦裁判事は,ルーラ元大統領に対する収賄(アチバイア市の別荘改修にかかる資金をオーデブレヒト社から不正受領)及びマネロン容疑の起訴状を受理。
 
(イ)22日,連邦最高裁は,コロル元大統領(現上院外交国防委員長,PTC)に対する連邦検察庁の起訴状(ペトロブラス系企業BR Distribuidora社から2900万レアルを収賄した容疑)を受理。
 
(ウ)22日,連邦検察庁は,ベンディネ元ペトロブラス社総裁を起訴(総裁時代にオーデブレヒト社に便宜を図り,300万レアルを収賄した等の容疑)。24日,クリチバ連邦裁は同起訴状を受理。
 
(エ)25日,連邦検察庁は,ペトロブラス系列燃料輸送会社Transpetro社の汚職事件に関し,PMDBの複数の重鎮議員(カリェイロス前上院議長,アウヴェス上院議員,ジューカー政府上院院内総務,ハウピ上院議員,サルネイ元大統領)を収賄とマネロン容疑で起訴。ジューカー政府上院院内総務に関しては,続いて28日にもオーデブレヒト社からの収賄容疑で別途起訴。
 
(オ)28日,連邦最高裁判所ウェベル判事は,セーハ上院議員(PSDB,前外務大臣)が2010年の上院議員選挙でJBS社から不正献金を受領していた容疑で,連邦検察庁に捜査を許可。

 
(3)連邦議会の動向
(ア)9日,政治改革に関する下院特別委員会は,カンジド下院議員(PT)が提出した報告書(36億レアルの選挙資金特別基金の創設,副大統領・副知事・副市長の副ポストの廃止,2018年の下院議員選挙及び州議会議員選挙,2020年の市議会議員選挙に限り,現在の比例代表制ではなく、大選挙区制を採用する等)を賛成多数で可決。15日,同委員会は,カンジド報告書に基づく憲法改正案を可決。
 
(イ)16日,メンデス選挙高等裁判所長官は,マイア下院議長及びオリヴェイラ上院議長に対し,議院内閣制(直接選挙で選出された大統領が国家元首となり,下院で選出された首相が国政を担当)の導入に関する憲法改正案を提出。
 
(ウ)22日,PSDBのアエシオ・ネーヴェス党首(一時停止中)とジェレイサッチ党首代行が協議し,同党は連立与党に当面留まることで合意。
 
(エ)23日,政治改革に関する下院特別委員会は,ジェリダン下院議員(PSDB)の提案した法案(2018年から比例代表選挙における政党連合を禁止,政党成立要件の厳格化等を規定)を柱とする憲法改正案を可決。

 
(4)その他
(ア)12日,2013年にボリビアからブラジルに亡命したロジャー・モリナ元上院議員が,ゴイアス州で自家用機を操縦中に墜落し,16日に死亡(同元議員の亡命は,在ボリビア伯大使館員の手引きで行われ,両国の外交問題となった経緯あり)。
 
(イ)18日,ルーラ元大統領,恒例の北東部遊説を開始。
 
 

【外政】

(1) ベネズエラ情勢
(ア)5日,サンパウロにてメルコスール外相会議(議長国:伯)が開催され,結果,ウシュアイア議定書に基づく民主主義条項の適用によるベネズエラの「資格停止」が正式に決定。停止の終了には,同国の民主的秩序の完全回復の達成が必要とされる。
 
(イ)8日,ヌネス外務大臣は,リマで開催されたベネズエラ情勢に関する外相会合に出席。ブラジル,アルゼンチン,カナダ,チリ,コロンビア,コスタリカ,グアテマラ,ホンジュラス,メキシコ,パナマ,パラグアイ,ペルーの外相及び代表が出席した同会合では, ベネズエラの民主主義秩序の断絶に対する非難,制憲議会及び同議会による行為の否認等を内容とする「リマ宣言」を採択。
 
(ウ)12日,伯外務省は,トランプ米大統領がベネズエラに対し,軍事的な選択肢も排除しないと発言したことに対し,メルコスールとして反対する旨の声明を発表。
 
(エ)18日,伯外務省は,ベネズエラ制憲議会による国会からの立法権の剥奪をメルコスールとして非難する声明を発出。

 
(2)水銀に関する水俣条約の批准
     8日,伯政府は,水銀及び水銀化合物の人為的な排出から人の健康及び環境を保護することを目的とする「水銀に関する水俣条約」を批准。
 
 
(3)米シャーロッツビルにおける事件
     14日,伯外務省は米国ヴァージニア州シャーロッツビルで発生したで発生した白人至上主義グループと反対派の衝突事件に関して遺憾の意を表する声明を発出。
 
 
(4)バルセロナにおけるテロ事件
     17日,伯外務省は,バルセロナで同日発生したテロ事件につき,動機の如何に関わらずテロ行為を非難するプレスリリースを発出。続いて,同日夜,伯外務省はメルコスール議長国としての非難声明も併せて発出。

 
(5)カルテス・パラグアイ大統領訪伯
(ア)21日,カルテス・パラグアイ大統領は伯を国賓訪問し,テメル大統領と会談を行った。
 
(イ)今次訪問の結果,両国は主に,(1)国境地帯の水資源保護(グアラニ地下水脈協定の批准手続に関する情報交換),(2)イタイプー水力発電所(イタイプー条約の見直しに向けた準備等),(3)国境地帯統合のためのインフラ整備(現在進行中のプロジェクトに対する資金調達に関する協議),(4)国際犯罪対策(昨年11月に伯において開催された「南米南部国境地帯安全保障閣僚級会議」の継続,並びに伯・パラグアイ合同委員会を通じた,国際犯罪摘発のための二国間協力の強化)等について合意した。

 
(6)ヌネス外相の欧州訪問
(ア)8月25日~30日,ヌネス外務大臣は,ロンドン,パリ,ブリュッセルを歴訪。伯外務省声明によれば,訪問目的は欧州諸国との伝統的パートナーシップの強化とされる。
 
(イ)25日,ヌネス外相は,ロンドンにおいてジョンソン外相と会談。同会談では,伯のOECD加盟,環境課題,国連安保理改革,二国間貿易投資促進等について協議を行った模様。
 
(ウ)28日,ヌネス外相は,パリにおいてル・ドリアン欧州・外務相と会談する。同会談では,2006年に合意した戦略的パートナーシップに基づく,国境協力,防衛・宇宙分野の計画,平和維持や気候変動等のグローバルアジェンダ,EUメルコスールFTA交渉に焦点を当てた貿易投資分野につき協議を行った模様。
 
(エ)29~30日,ヌネス外相は,ブリュッセルにおいて,カタイネン欧州委員会副委員長兼雇用・成長・投資・競争力担当委員,及び,マルムストローム貿易担当欧州委員と会談。同会談では,伯議長下のメルコスールとEU間のFTA交渉の締結について協議。また,ヌネス外相はタヤーニ欧州議会議長及びモゲリーニ欧州委員会副委員長兼欧州連合外務・安全保障政策上級代表とも会談し,2017年に10周年を迎えるブラジル・EU戦略的パートナーシップの深化について協議を行った模様。

 

トピックス

(1)ブラジル産業財産庁と協力関係を拡大する覚書に署名
     8月1日、ブラジル産業財産庁のピメンテル長官が特許庁を訪問し、宗像特許庁長官と会談した。会談では、今年4月から両庁間で開始された特許審査ハイウェイ(PPH)や実体審査における協力を含む産業財産分野における協力の拡大を目的とする新しい協力覚書に署名し、両庁間の協力を今後更に強化していくことを確認した。

 
(2)恒川惠一政策研究大学院大学特別教授による講演の実施
     8月15日、恒川惠一政策研究大学院大学特別教授は、ブラジリア連邦大学アジア・ラテンアメリカ研究センター主催の学術セミナーにて、「Achievement and Challenges of the Emerging-ecomony States: Latin America and Asia in a Comparative Perspective」と題する講演を行なった。また、公演に引き続き、活発な質疑応答も行われ、その後、同大学教授や学生を交え、意見交換会が行われた。

 
(3)連邦補足法160/2017号の成立について(在マナウス総領事館)
(ア)テメル大統領は8月8日,商品サービス流通税(ICMS)の税制恩典付与並びに恩赦に関する補足法160/2017号を裁可(承認)した。これまでは,各州政府が税制恩典を付与する場合,全国財政政策審議会(Confaz:全州の財務局長から成る)で全会一致の承認を得ることが義務付けられていたが,今後は,各地域(北部,北東部,中西部,南東部,南部)毎の1/3以上かつ全体の2/3以上の同意を得られれば税制恩典を付与できる。また,これまでConfazの全会一致の合意なしに事実上違法に付与されてきた税制恩典に関しても,同補足法施行後180日以内にConfazで追認されれば合法とされる。更に今般,税制恩典の付与,また,延長に関しては業種に応じて1~15年までの期限が定められた。
 
(イ)同補足法の成立に対して,アマゾナス州の官民は,マナウス・フリーゾーン(ZFM)に連邦憲法により特権的に認められた税制恩典による競争力を損なう措置であるとして断固反対する構えである(注:連邦憲法はZFMが特権的に扱われる大義名分の一つとして北部地域の発展を謳っている)。ZFMには製造業だけでブラジル内外の約460社が生産拠点を置いているが(2016年12月現在),これは南東部等の国内大消費地(大市場)と遠隔地であることの諸コストを払ってもなお十分な利益を得られるだけの大きな税制恩典が存在するためである。同補足法によりZFM以外のブラジル他地域でもより簡易な条件で税制恩典が与えられれば,ZFMが有する相対的な競争力を損ねることになり,最悪の場合ZFM所在企業の域外転出などが起こり得るため,アマゾナス州の政財界は懸念を隠していない。
 
(ウ)最初に批判の矢面に立たされたのは,アマゾナス州選出の11名の国会議員である(上院3名,下院8名)。同補足法案の賛否に関する採決では3名が賛成,1名が反対,1名が白票,6名が欠席という有様だったためZFMの権益を守らなかったのは怠慢であると指弾されたが,セラフィン・コレア/アマゾナス州議員(PSB)は,15年後の2032年には他州はICMS恩典を付与できなくなり,その後はZFM延長が憲法上認められている2073年まで税制恩典を付与できるのはアマゾナス州のみとなるとして,中長期的にはZFMにとって悪くはないとの持論を展開し同僚国会議員を弁護した。
 
(エ)8月22日,同補足法がZFMに与える影響を最小限に抑えることを目的として,アマゾナス州政府と同州所在企業家からなる合同委員会が結成された。アルメイダ州知事代行は,他州が付与するICMSの税制恩典の承認期限と定められている今後180日間,同州政府の立場や考えを伝えるために同州政府のチームがConfazに働きかけ,全ての解釈を検討した上で法的措置を取るか否か判断すると発表した。
 
(オ)これに先立つ8月15日,アマゾナス州検察庁(PGE),マナウス市議会,アマゾナス州議会は共同で,補足法160/2017号に対して,最高裁(STF)に直接違憲訴訟(Adim)を提起する方向で準備している旨声明し,タデウ・デ・ソウザ同州検事総長は,過去の同様の違憲訴訟では7割以上の戦績で勝訴していると述べているところ,上記(4)の働きかけの如何によってはいつでもSTFにおける法廷闘争に発展し得る状態にある。ZFMには工業部門で30社の日本企業が進出しているところ,在マナウス日本国総領事館としても本件を予断することなく鋭意フォローして参る所存。