最近の経済情勢 2016年6月号
平成28年7月8日
(1)経済情勢等(5月発表の経済指標)
(ア)中銀が週次で発表しているエコノミスト等への調査に基づく経済成長予測に関し,5月27日時点では,本年の経済成長率は▲3.81%で2週連続の上方修正,明年の経済成長率は0.55%とされた。また,本年のインフレ率見通しは7.06%で2週連続の上方修正,明年のインフレ率見通しは5.50%とされた。(イ)4月の拡大消費者物価指数(IPCA)は単月で0.61%となり,前月の0.43%から再び上昇した。食料・飲料費が+1.09%,保健・衛生費が+2.33%となったことが寄与した。また,本年当初からの累計で3.25%,12か月累計で9.28%の上昇となり,依然として政府のインフレ目標の上限である6.5%を上回る水準となっている。
(ウ)3月の鉱工業生産指数は,前年同月比▲11.4%で25か月連続のマイナス,前月比では+1.4%となった。
(エ)4月の貿易収支は,輸出額は153.74億ドル(前年同月比+1.4%,前月比▲3.9%),輸入額は105.13億ドル(前年同月比▲28.3%,前月比▲9.0%)で,差し引き48.61億ドルとなり14か月連続で貿易黒字を記録した。
(オ)3月の小売売上高は,前年同月比▲5.7%で12か月連続のマイナス,前月比では▲0.9%となった。
(カ)全国の失業率(2~4月の移動平均)は11.2%となり,前回の公表値(1~3月の移動平均)の10.9%から悪化した。
(2)経済政策等
(ア)5月12日,新たに就任したテメル大統領代行は,財務大臣にエンリケ・メイレレス前中銀総裁,企画予算大臣にロメロ・ジュカー上院議員をそれぞれ任命した(注:ジュカー企画予算大臣は,汚職関与の疑いを与える録音内容が報じられたことを機に,同23日に休職願を提出し,テメル大統領代行も承認)。(イ)5月12日,テメル暫定政権は,新たなインフラ投資プログラムとなる投資連携プログラム(PII)を発表し,大統領府に大統領が議長を務めるPPI審議会及び事務局を設置するとした。
(ウ)5月13日,新たに就任したメイレレス財務大臣は,年金制度,労働及び歳出額の上限設定といった改革を優先事項として検討するとともに,経済を回復させるための措置は,現実的かつ議会によって承認が見込まれるものである必要があると述べた。
(エ)5月16日,伯企画予算省は,マルケス女史が伯経済社会開発銀行(BNDES)総裁に就任すると発表した。
(オ)5月17日,メイレレス財務大臣は,テメル暫定政権の経済チームのメンバーを承認し,中銀総裁にゴールドファイン・現イタウ銀行チーフエコノミストを指名した。また,今後30日以内に年金制度改革案を議会に提出するとした。
(カ)5月20日,伯財務省及び企画予算省は,2016年度の政府全体のプライマリーバランス目標を▲1,639.42億レアル(GDP比▲2.64%),連邦政府のプライマリーバランス目標を▲1,704.96億レアル(GDP比▲2.75%)とすることを発表した。また,2016年のマクロ経済指標の政府見通しについて,GDP成長率は▲3.8%,インフレ率は7.0%,政策金利(Selic)は14.0%,ドル・レアル為替レートは1ドル=3.7レアルとされた。
(キ)5月24日,テメル暫定政権は,歳出削減に関する措置を発表した。歳出の上限設定については,歳出の伸び率を前年のインフレ率を上限とする憲法改正案を連邦議会に提案し,来年度までに実施するとした。また,伯経済社会開発銀行(BNDES)への貸付の返納,プレサル基金の活用,補助金供与の増額の制限等が盛り込まれた。なお,年金制度改革については,労働組合及び社会の代表の参加を得て検討を行い,合意に達した段階で発表するとした。
(ク)5月25日,連邦議会は,政府の提案した2016年度のプライマリーバランス目標の変更を承認した。
(ケ)5月25日,テメル暫定政権は,公的金融機関の新総裁を発表した。ブラジル銀行総裁にカファレッリ・現ナシオナル製鉄(CSN)執行役員(元ブラジル銀行副総裁,財務次官),連邦貯蓄公庫(カイシャ・エコノミカ)総裁にオッキ・前国家統合大臣をそれぞれ充てるとした。
(コ)5月30日,国営石油会社のペトロブラス社は,ペドロ・パレンテ氏(カルドーゾ政権で企画予算大臣,文官長等を歴任)が新総裁に就任すると発表した。
(3)中銀の金融政策等
(ア)5月は政策金利(Selic)を決定する中銀の通貨政策委員会(Copom)は開催されていない。次回会合は,6月7・8日に開催予定。(イ)5月12日,テメル大統領代行は,所信表明演説において,市場に対するメッセージとして,中銀の独立性は維持され,金融政策実施のためにその活動は強化されるとともに,インフレ抑制を実現させ,労働者階級への負担を減らし,経済を回復させなければならないと述べた。
(ウ)5月13日,テメル暫定政権は,今後進めるとされる憲法改正の成立後,中銀総裁を閣僚ポストから除外する大統領暫定措置令を公表した。
(エ)5月17日,メイレレス財務大臣は,中銀の決定に関する技術的自立性を憲法改正を通じて保障するとともに,中銀総裁に閣僚のステータスがなくなっても,憲法改正案を通じて特別の権利が保障される旨述べた。
(4)為替市場
(ア)5月のドル・レアル為替相場は,前半はルセーフ大統領の弾劾手続の進展,後半はテメル暫定政権の動向が主な取引材料になった一方,中銀による大規模な為替介入(ドル買い・レアル売り)も断続的に行われた結果,1ドル=3.5レアル前後の比較的狭いレンジでの値動きとなった。(イ)月の前半は,ルセーフ大統領の弾劾手続が上院においても順調に進行したことから,政権交代期待でレアル買いの動きが強まったものの,中銀による為替介入も実施された結果,1ドル=3.5レアルを挟む展開となった。
(ウ)月の後半は,米国の早期利上げの観測が高まったことに加え,新たに発足したテメル暫定政権の重要閣僚であるジュカー企画予算大臣の辞任等の動きを嫌気し,1ドル=3.6レアル台までドル高・レアル安が進行した。月末は1ドル=3.6116レアルで取引を終えた(前月比+5.1%のドル高・レアル安)。
(5)株式市場
(ア)5月のブラジルの株式相場(Ibovespa指数)は,中国の景気減速長期化の懸念や米国の早期利上げ観測の高まりといった外部環境の悪化に加え,内政面での混乱も嫌気された結果,ほぼ一貫して下落する展開となった。(イ)月の前半は,ルセーフ大統領の停職決定が好感されたものの,中国の弱い経済指標等が嫌気され,乱高下しつつも一時50,000ポイント台まで下落した。
(ウ)月の後半は,米国の早期利上げの観測が高まったことにより新興国の株価が下落したことに加え,月末にかけては内政面での混乱が嫌気され,株価は引き続き下落した。月末の株価は48,472ポイントとなり,前月比▲10.1%の下落となった。