「野口大使のブラジル便り」第1号
令和8年5月7日
「リベルダージのサムライ」
ブラジル・サンパウロ市のリベルダージ文化福祉協会会長の池崎博文さんに初めて会ったのは、2017 年 10 月に私が在サンパウロ総領事として着任して間もない頃だった。もう 90 歳になろうとするお歳であったが、恰幅がよく、ニコニコしながら握手をした腕を力強く前後に大きく振る姿が印象に残っている。熊本県で生まれ、ご両親に連れられ幼少の頃サンパウロ州内陸部のバストスに移住されたそうだ。大変なご苦労をされた後、サンパウロ市にて化粧品販売事業で成功されたビジネスマンである。サンパウロのリベルダージ地区は日系人が中心になって作った街であり今も鳥居などの日本の文化が街並みに溶け込んでいる街である。そのリベルダージも近年、多様なアジア系の進出が盛んになり、街の姿も変化している中で、池崎さんはこの伝統的な日本人街に日本文化をなんとか残していこうと正に奮闘された。リベルダージの日系ホテルが他国の資本によって買収される計画が持ち上がった際には自ら買収に乗り出して阻止した。リベルダージで毎年 4 月に花祭り、7 月には七夕祭り、大晦日には餅つき大会などを開催し、ブラジルでの日本文化の普及にも大変貢献された。2018 年には、サンパウロ州政府にかけ合い、リベルダージの地下鉄駅名を「リベルダージ」から「日本・リベルダージ」に変更することに成功された。このリベルダージが日本人街であった歴史をなんとか残そうとの思いからの行動であった。正にリベルダージのサムライだと思った。私も、日本文化普及のための様々な行事に参加し、2018 年の日本人ブラジル移住 110 周年では、多くの催しで一緒に仕事をさせていただいた。その後、私は 2020 年 7 月にサンパウロを離任したが、2022年 5 月、池崎さんは享年 94 歳で逝去された。それから時が経ち、私は駐ブラジル日本国大使に任命され、二度目のブラジル勤務に恵まれた。2026 年 1 月、ブラジリア着任後初めてのサンパウロ訪問の際、池崎さんのお墓にお参りすることができた。サンパウロ在勤中、池崎さんの熱意に十分に応えられなかった面もあったが、ブラジルにおいて、そしてリベルダージにおいて、日本文化の灯火がいつまでも残り、更に輝きを放つことを願ってやまない。そのために、私としても池崎さんの意思を引き継ぎ、ブラジル日系社会との連携と最大限のサポートを行なっていきたい。

