「日伯司法協力」
平成27年8月28日
8月18日,サンパウロ大学法学部において,ブラジル日本比較法学会,サンパウロ大学,日本ブラジル法律文化協会の共催によるシンポジウム「日本ブラジル法学国際シンポジウム」が開催されました。同シンポジウムにおいて,梅田邦夫大使は,「日伯司法協力」と題した講演を行い,日本にとってのブラジルの重要性,日伯間で行われている司法・治安分野での協力,日伯間の人的・経済的交流の強化について話しました。
本シンポジウムにおける梅田大使の講演は以下のとおりです。
はじめに
日伯外交関係樹立120周年の今年、ブラジル国内で約900の関連行事が開催されますが、法律・司法分野に焦点を当てた行事は、このセミナーが唯一のものです。
このような貴重な機会を設けていただいたマリア・アルミンダ・ナシメント・アフーダ・サンパウロ大学文化担当副学長,ジョゼ・ホジェーリオ・クルス法学部長、ワタナベ・カズオ法学部教授,ミヤジマ・ツカサ慶応大学教授,ニュートン・シウベイラ・ブラジル日本比較法学会会長,本林徹(モトバヤシトオル)日本ブラジル法律文化協会理事長に深く感謝申し上げます。また、セルロ・ラフェル元外務大臣、グラサ・リマ外務省次官補と共に出席できていることをうれしく思います。
本日は,(1)日本にとってのブラジルの重要性,(2)刑事司法分野における協力、(3)人的交流拡大、(4)経済関係強化のために必要と思われる制度整備の4点について紹介させていただきます。
本シンポジウムにおける梅田大使の講演は以下のとおりです。
はじめに
日伯外交関係樹立120周年の今年、ブラジル国内で約900の関連行事が開催されますが、法律・司法分野に焦点を当てた行事は、このセミナーが唯一のものです。
このような貴重な機会を設けていただいたマリア・アルミンダ・ナシメント・アフーダ・サンパウロ大学文化担当副学長,ジョゼ・ホジェーリオ・クルス法学部長、ワタナベ・カズオ法学部教授,ミヤジマ・ツカサ慶応大学教授,ニュートン・シウベイラ・ブラジル日本比較法学会会長,本林徹(モトバヤシトオル)日本ブラジル法律文化協会理事長に深く感謝申し上げます。また、セルロ・ラフェル元外務大臣、グラサ・リマ外務省次官補と共に出席できていることをうれしく思います。
本日は,(1)日本にとってのブラジルの重要性,(2)刑事司法分野における協力、(3)人的交流拡大、(4)経済関係強化のために必要と思われる制度整備の4点について紹介させていただきます。
1.日本にとってのブラジルの重要性
日本は,次の5つの観点からブラジルを重視しています。
(1)第一に、日本とブラジルは,民主主義、司法の独立、報道の自由等の基本的価値観を共有しいます。両国はそれぞれ大きな課題に直面していますが,透明性のある公正な社会の実現に向け努力しています。
今年は、第二次世界大戦の終了から70年です。去る8月14日、安倍総理は戦後70年談話を発表しました。その中で、安倍総理は「私たちは、国際秩序への挑戦者となった過去をこの胸に刻み続けます」と述べたうえで、「日本は、自由、民主主義、人権といった基本的価値を堅持し、積極的平和主義の旗を高く掲げ、基本的価値を共有する国々と手を携えて、世界の平和と安全にこれまで以上に貢献する」と述べました。日本にとってブラジルは正に基本的価値を共有する重要なパートナーです。
(2)第二に,日本とブラジルの間には「特別な人的絆」が存在しています。日本人のブラジルへの移住は107年の歴史があります。現在、ブラジルの日系人数は約190万人であり、海外の日系人コミュニティとしては世界最大規模です。また、日本には約18万人のブラジル人が居住しています。
(3)三点目は、ブラジルが世界有数の親日国であることです。ブラジルでは、日本・日本人は信頼されています。また、焼きそば、醤油などの日本食、柔道、アニメ等はブラジル文化の一部として受けいれられています。このことは、日系社会が長年にわたりブラジルの発展に貢献されてきた成果であり、日本大使として日系社会の長年のご尽力に心から感謝しています。また、多くの日本人もブラジルに対して非常に好意的な印象を持っています。
(4)四点目は、緊密な経済関係です。日本とブラジルは、これまでにセラード開発(プロデセール)、セニブラ(パルプ)、ウジミナス(鉄鋼)、アルブラス(アルミ),イシブラス(造船)等の共同プロジェクトを実施してきました。現在,日本はブラジルから鉄鉱石、大豆,コーヒー、鶏肉等の食糧を輸入しています。ブラジルは日本の資源と食料安全保障の観点から不可欠の存在です。また、GDPで世界7位となったブラジルは、消費市場及び投資対象国として重要です。
(5)5点目は、国際舞台での協力を深めていることです。G4の枠組みで安保理改革に向けての協力、日伯デジタル放送方式の普及協力、モザンビークでのプロサバンナ事業を共同で進める重要なパートナーとなっています。
(1)第一に、日本とブラジルは,民主主義、司法の独立、報道の自由等の基本的価値観を共有しいます。両国はそれぞれ大きな課題に直面していますが,透明性のある公正な社会の実現に向け努力しています。
今年は、第二次世界大戦の終了から70年です。去る8月14日、安倍総理は戦後70年談話を発表しました。その中で、安倍総理は「私たちは、国際秩序への挑戦者となった過去をこの胸に刻み続けます」と述べたうえで、「日本は、自由、民主主義、人権といった基本的価値を堅持し、積極的平和主義の旗を高く掲げ、基本的価値を共有する国々と手を携えて、世界の平和と安全にこれまで以上に貢献する」と述べました。日本にとってブラジルは正に基本的価値を共有する重要なパートナーです。
(2)第二に,日本とブラジルの間には「特別な人的絆」が存在しています。日本人のブラジルへの移住は107年の歴史があります。現在、ブラジルの日系人数は約190万人であり、海外の日系人コミュニティとしては世界最大規模です。また、日本には約18万人のブラジル人が居住しています。
(3)三点目は、ブラジルが世界有数の親日国であることです。ブラジルでは、日本・日本人は信頼されています。また、焼きそば、醤油などの日本食、柔道、アニメ等はブラジル文化の一部として受けいれられています。このことは、日系社会が長年にわたりブラジルの発展に貢献されてきた成果であり、日本大使として日系社会の長年のご尽力に心から感謝しています。また、多くの日本人もブラジルに対して非常に好意的な印象を持っています。
(4)四点目は、緊密な経済関係です。日本とブラジルは、これまでにセラード開発(プロデセール)、セニブラ(パルプ)、ウジミナス(鉄鋼)、アルブラス(アルミ),イシブラス(造船)等の共同プロジェクトを実施してきました。現在,日本はブラジルから鉄鉱石、大豆,コーヒー、鶏肉等の食糧を輸入しています。ブラジルは日本の資源と食料安全保障の観点から不可欠の存在です。また、GDPで世界7位となったブラジルは、消費市場及び投資対象国として重要です。
(5)5点目は、国際舞台での協力を深めていることです。G4の枠組みで安保理改革に向けての協力、日伯デジタル放送方式の普及協力、モザンビークでのプロサバンナ事業を共同で進める重要なパートナーとなっています。
2.刑事司法・治安分野における協力
次に、刑事司法及び治安分野における二国間協力に関連し、3つの具体例を紹介します。
(1)第一の協力の例は、日ブラジル受刑者移送条約です。この条約は昨年1月、日ブラジル両政府の間で署名され、日本の国会では昨年6月に批准されました。現在、ブラジルの連邦議会が審議中です。
現在,日本の刑務所には,約240名のブラジル人が服役中です。その約半数の受刑者が、家族との面会を理由にブラジルへの早期移送を希望しており、「受刑者移送条約」の早期発効が望まれます。ブラジルの刑務所には日本国籍保有者5人が服役中です。
(2)刑事司法分野の2つめの協力は,「国外犯処罰」です。
殺人や強盗殺人等の凶悪犯罪人に関して、日本は多くの国と「犯罪人引渡し条約」を締結しています。しかしながら、ブラジル憲法は,自国民の外国への引渡しを禁じていることから、特別な協力が必要です。数年前まで日本社会には、ブラジルに帰国した犯罪者が日本に引き渡されない、ブラジル国内においても処分されないとの強い不信と不満がありました。最近は法制度の違いに関する相互理解が進み、日伯協力が円滑になっています。日本政府は、これまで「7つの事案」について、犯人の逮捕、処罰をブラジル側に要請しました。そのうち「3事案」については、既に適切に処理され、残りの「4つの事案」についても、ブラジルの検察庁及び裁判所が真摯に対応中です。日本政府は、ブラジルの真摯な協力を信頼しています。
(3)3点目は,治安対策面での日本とブラジルの協力です。日本には、「交番」と呼ばれる警察官が常駐する小さな事務所が街中に多く設置されています。「交番」は、犯罪の抑止、警察官の事件現場への迅速な到着を可能にします。また、一般市民が道を尋ねたり、落とし物を届けたりといった「市民生活を支える場」としても機能します。交番システムの根底には,市民の安全確保は警察官だけでできるものではなく、市民の助けがあって初めて可能になるとの考えがあります。
この交番制度をブラジルにも導入しようということで、日本の警察庁及びJICAがサンパウロ州と協力し、2005年からサンパウロ州を中心に交番を設置してきました。サンパウロ州では,1999年から2011年にかけて10万人当たりの殺人件数が35件から10件へと減少しました。交番制度が治安改善の一翼を担ったとすれば、幸いです。
昨年8月、ブラジリアでの「日ブラジル首脳会談」において、両国の関係当局が協力して2018年までに連邦直轄区を含むすべての州に交番を普及させようとの合意がありました。今年3月から取組みを開始しています。
ここサンパウロ大学にも,9月から交番が導入される予定と聞いています。サンパウロ州立大学(Unesp)、カンピーナス州立大学(Unicamp)でも導入を検討中の由です。交番が各大学の安全向上に大きく貢献することを期待します。
(1)第一の協力の例は、日ブラジル受刑者移送条約です。この条約は昨年1月、日ブラジル両政府の間で署名され、日本の国会では昨年6月に批准されました。現在、ブラジルの連邦議会が審議中です。
現在,日本の刑務所には,約240名のブラジル人が服役中です。その約半数の受刑者が、家族との面会を理由にブラジルへの早期移送を希望しており、「受刑者移送条約」の早期発効が望まれます。ブラジルの刑務所には日本国籍保有者5人が服役中です。
(2)刑事司法分野の2つめの協力は,「国外犯処罰」です。
殺人や強盗殺人等の凶悪犯罪人に関して、日本は多くの国と「犯罪人引渡し条約」を締結しています。しかしながら、ブラジル憲法は,自国民の外国への引渡しを禁じていることから、特別な協力が必要です。数年前まで日本社会には、ブラジルに帰国した犯罪者が日本に引き渡されない、ブラジル国内においても処分されないとの強い不信と不満がありました。最近は法制度の違いに関する相互理解が進み、日伯協力が円滑になっています。日本政府は、これまで「7つの事案」について、犯人の逮捕、処罰をブラジル側に要請しました。そのうち「3事案」については、既に適切に処理され、残りの「4つの事案」についても、ブラジルの検察庁及び裁判所が真摯に対応中です。日本政府は、ブラジルの真摯な協力を信頼しています。
(3)3点目は,治安対策面での日本とブラジルの協力です。日本には、「交番」と呼ばれる警察官が常駐する小さな事務所が街中に多く設置されています。「交番」は、犯罪の抑止、警察官の事件現場への迅速な到着を可能にします。また、一般市民が道を尋ねたり、落とし物を届けたりといった「市民生活を支える場」としても機能します。交番システムの根底には,市民の安全確保は警察官だけでできるものではなく、市民の助けがあって初めて可能になるとの考えがあります。
この交番制度をブラジルにも導入しようということで、日本の警察庁及びJICAがサンパウロ州と協力し、2005年からサンパウロ州を中心に交番を設置してきました。サンパウロ州では,1999年から2011年にかけて10万人当たりの殺人件数が35件から10件へと減少しました。交番制度が治安改善の一翼を担ったとすれば、幸いです。
昨年8月、ブラジリアでの「日ブラジル首脳会談」において、両国の関係当局が協力して2018年までに連邦直轄区を含むすべての州に交番を普及させようとの合意がありました。今年3月から取組みを開始しています。
ここサンパウロ大学にも,9月から交番が導入される予定と聞いています。サンパウロ州立大学(Unesp)、カンピーナス州立大学(Unicamp)でも導入を検討中の由です。交番が各大学の安全向上に大きく貢献することを期待します。
3.人的交流強化
次に人的交流強化の取り組みについてご紹介します。現在、日本からブラジルへは年間約9万人,ブラジルから日本へは約3万人が訪問しています。日本とブラジルは地球の反対に位置するという制約があるとはいえ、この数字はあまりに少なく、人的交流を大幅に増加させる余地は大きいと考えます。
このような問題意識に基づいて、日本は、今年6月、一般旅券を有するブラジル人に対する数次査証の発給(有効期間3年)を開始しました。今年の外交関係樹立120周年、来年のリオ・オリンピック・パラリンピック、2020年の東京オリンピック・パラリンピックは両国の人的交流を大きく拡大する機会になると考えます。
今年12月、ルセーフ大統領の日本公式訪問が予定されており、ブラジル側が日本人旅行者に対して同様の措置を早期にとることを期待しています。特に、来年のリオ・オリンピック・パラリンピックは、ブラジルに来る日本人旅行者を増やす、大きなチャンスです。また、ゆくゆくは、日本と欧米のように、日本とブラジルの間を「ビザなし」で往来できるようにすることが理想です。
因みに、今年6月発表された米国の「トラベル+レジャー社」の読者投票の結果、世界で最も人気のある旅行先は、日本の京都が二年連続で一位に選ばれています(二位:米チャールストン、三位:カンボジア・シェムリアップ、四位:フィレンツエ、5位:ローマ)。
また、今年6月公表された英国の「2015年MONOCLE社」の「生活の質に関する調査」では、世界で最も住みやすい都市として東京が選ばれています(二位ウイーン、三位ベルリン)。より多くのブラジル人の方に是非日本を訪問していただきたいと期待します。
このような問題意識に基づいて、日本は、今年6月、一般旅券を有するブラジル人に対する数次査証の発給(有効期間3年)を開始しました。今年の外交関係樹立120周年、来年のリオ・オリンピック・パラリンピック、2020年の東京オリンピック・パラリンピックは両国の人的交流を大きく拡大する機会になると考えます。
今年12月、ルセーフ大統領の日本公式訪問が予定されており、ブラジル側が日本人旅行者に対して同様の措置を早期にとることを期待しています。特に、来年のリオ・オリンピック・パラリンピックは、ブラジルに来る日本人旅行者を増やす、大きなチャンスです。また、ゆくゆくは、日本と欧米のように、日本とブラジルの間を「ビザなし」で往来できるようにすることが理想です。
因みに、今年6月発表された米国の「トラベル+レジャー社」の読者投票の結果、世界で最も人気のある旅行先は、日本の京都が二年連続で一位に選ばれています(二位:米チャールストン、三位:カンボジア・シェムリアップ、四位:フィレンツエ、5位:ローマ)。
また、今年6月公表された英国の「2015年MONOCLE社」の「生活の質に関する調査」では、世界で最も住みやすい都市として東京が選ばれています(二位ウイーン、三位ベルリン)。より多くのブラジル人の方に是非日本を訪問していただきたいと期待します。
4.経済関係強化
経済関係強化のために取り組むべき点は多々あります。日本とブラジルの経済関係は長い歴史を有していますが、昨年の日伯間の貿易総額は年間約120億ドルです。日本とインド間の貿易総額約150億ドル、日本とインドネシア402億ドルよりも少ない額です。ブラジルで活動する日本企業は2008年から2013年の間に倍増し、現在約700社ですが、インドには1,200社、インドネシアには約1,300の日本企業が活動しています。ブラジルのGDPは、インドより大きく、ASEAN10か国を合わせた規模であることを勘案すると、改善の余地は非常に大きいと考えます。
現在、サンパウロにあるブラジル日本商工会議所が中心となり、外国投資を増やすための改善策をとりまとめています。この改善策は「さらなる投資実現に向けた行動計画」(AGIR)と呼ばれており、ブラジルの経済に関する4つのテーマに着目して問題点を分析しています。その4つとは、「裾野産業育成・中小企業進出促進」、「インフラ整備の促進」、「企業競争力の強化に向けた税務環境の改善」、「労働生産性の向上」です。
「裾野産業育成・中小企業進出促進」に関し,ブラジルでは長年の保護政策により、特に工業が弱くなっています。立て直しのためには、海外からの技術導入促進策、産業人材育成が急務です。また、知的財産所有権の保護も課題です。ブラジルでは特許権の取得に8-12年要するために、先端技術を有する企業が事業を展開しにくく、結果的にブラジルにおいてイノベーションが起こりにくくなっています。特許審査の期間短縮は重要課題です。
「インフラ整備の促進」では、物流インフラが不十分なため、資材や商品の輸送に大きな非効率が生じており、新規投資の障害になっています。物流の基盤整備、効率化対策が必要です。また、産業基盤となる電力、水道料金の上昇にも対策が必要です。
これらの分野のインフラ改善には、大規模な投資が必要ですが、ブラジルでは地場銀行の金利が非常に高いため、外国銀行への資金需要が高まっています。外国銀行はブラジル国内での支店設立を認められていないので、本国からの資金移動に苦労しています。このままでは、長期にわたる多額の融資を行うことは無理です。インフラ整備促進のためにも、外国銀行への規制緩和が望まれます。
「企業競争力の強化に向けた税務環境の改善」については,商品流通サービス税(ICMS)、工業製品税等の複雑な税制が企業活動を阻害しています。複雑であるが故に手続きに時間がかかり,企業が支払う費用(税理士費用等)は膨大です。また、税の還付制度がうまく機能していないことは、全国的にビジネスを展開する企業にとって大きな問題であり、改善が強く望まれます。幸いにも、ブラジル政府は税制の簡素化に取り組み始めていますので、その成果に期待しています。
以上紹介したように、日伯外交関係樹立120周年を迎え、両国の協力分野やテーマは多岐に渡っていますが、改善・発展の余地は多々あると考えます。引き続き、ブラジル政府と連携し、関係の幅を広げていく所存です。ご支援を宜しくお願い致します。ご静聴、ありがとうございました。(了)
現在、サンパウロにあるブラジル日本商工会議所が中心となり、外国投資を増やすための改善策をとりまとめています。この改善策は「さらなる投資実現に向けた行動計画」(AGIR)と呼ばれており、ブラジルの経済に関する4つのテーマに着目して問題点を分析しています。その4つとは、「裾野産業育成・中小企業進出促進」、「インフラ整備の促進」、「企業競争力の強化に向けた税務環境の改善」、「労働生産性の向上」です。
「裾野産業育成・中小企業進出促進」に関し,ブラジルでは長年の保護政策により、特に工業が弱くなっています。立て直しのためには、海外からの技術導入促進策、産業人材育成が急務です。また、知的財産所有権の保護も課題です。ブラジルでは特許権の取得に8-12年要するために、先端技術を有する企業が事業を展開しにくく、結果的にブラジルにおいてイノベーションが起こりにくくなっています。特許審査の期間短縮は重要課題です。
「インフラ整備の促進」では、物流インフラが不十分なため、資材や商品の輸送に大きな非効率が生じており、新規投資の障害になっています。物流の基盤整備、効率化対策が必要です。また、産業基盤となる電力、水道料金の上昇にも対策が必要です。
これらの分野のインフラ改善には、大規模な投資が必要ですが、ブラジルでは地場銀行の金利が非常に高いため、外国銀行への資金需要が高まっています。外国銀行はブラジル国内での支店設立を認められていないので、本国からの資金移動に苦労しています。このままでは、長期にわたる多額の融資を行うことは無理です。インフラ整備促進のためにも、外国銀行への規制緩和が望まれます。
「企業競争力の強化に向けた税務環境の改善」については,商品流通サービス税(ICMS)、工業製品税等の複雑な税制が企業活動を阻害しています。複雑であるが故に手続きに時間がかかり,企業が支払う費用(税理士費用等)は膨大です。また、税の還付制度がうまく機能していないことは、全国的にビジネスを展開する企業にとって大きな問題であり、改善が強く望まれます。幸いにも、ブラジル政府は税制の簡素化に取り組み始めていますので、その成果に期待しています。
以上紹介したように、日伯外交関係樹立120周年を迎え、両国の協力分野やテーマは多岐に渡っていますが、改善・発展の余地は多々あると考えます。引き続き、ブラジル政府と連携し、関係の幅を広げていく所存です。ご支援を宜しくお願い致します。ご静聴、ありがとうございました。(了)